ブラネン・クーパー

Brannen Cooper handmade #18XX (ca.1992, Boston)
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現在、私がオーケストラにおいてメインで使用している楽器です。音に遠達性があり、良く鳴る楽器です。大ホールでは、他の楽器の中に埋もれてしまうことなく、くっきりと輪郭のある音を奏でることができます。
そしてこの楽器の特徴は何といってもメカニズムの信頼性、操作性の良さと、幅広い表現力です。ただし、それなりの息の支えが必要ですし、コントロールを誤ると、単なる「バカ鳴り」となって、他からの顰蹙を買うことになるので注意が必要です。(こういった楽器は好き嫌いがありますが)
スケールは、クーパースケールが採用されていますので音程のコントロールは非常に楽です。メカニズムは、最近のはブロッガーカニックのものが標準のようですが、私のはトラディショナルメカニックのものです。(買った当時はブレッガーメカニックが選択肢にあったかどうか不明)
モントリオール響のティモシー・ハッチンスがブラネンのユーザーですが、調整する暇もない過密スケジュールのなかでその信頼性を選定理由のひとつにあげています。私ももうかれこれ二十数年オケではこの楽器を使っていますが、何のトラブルもなく非常に満足していますし、オーケストラのソロ楽器としてベストの選択だと思っています。

ルイ・ロット

 
Louis Lot #98XX (G. Chambille, ca.1929, Paris)
 
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まずはルイ・ロットについて多少述べてみたいと思います。 テオバルト・ベームからいわゆる「ベーム式フルート」の製造ライセンスを最初に取得したのはフランスのゴッドフロワ(Godfloy)とイギリスのルーダル&カルテ(Rudall & Carte)でした。 当時、ルイ・エスプリ・ロット(Louis Lot,ルイ・ロ)は、このゴドフロワの工房で協業していましたが、1855年に独立しフルート工房を始めました。 その後、世代交代しながらもメーカーとしては90余年の歴史を刻んでいますが、現在も多くの楽器が残っており、特に初代Louis Esprit Lotの時代ものはフルーティストの間で垂涎の的となっています。
フルートメーカーとしてのルイ・ロットは1855年から経営者が交代しながら百年近く、5千本余の金属フルートを製造しています。(シリアルナンバーは金属管が偶数、木管が奇数となっています。)
主な弟子(経営者)とシリアルナンバーの関係は次のようになっています。
 
Louis Esprit Lot (1855-75) No.0-2,000
H. D. Villette (1876-1882) No.2,150-3,390
Debonneetbeau de Coutelier (1882-1889) No.3,392-4,750
M. E. Barat (1889-1904) No.4,752-7,350
Ernest Chambille (1904-1922) No.7,352-9,210
G. Chambille (1922-1951) No.9212-10,442

およそ6千番以前のものは銀管、洋銀管とも板状の材料を叩いて丸めて管を作るシーム管と呼ばれる製法で作られているため、それによる物性値の違いから独特の輝かしい音色を持ち、それ以降のシームレス管(引抜き管)とは区別して扱われています。但し、何分にも古い楽器のため状態の良いものはなかなか店頭に並ぶことはありません。(良いものはとうに売れてしまっており、オーナーもそう簡単には手放さないからです。)またさすがにこれだけ古いものになると、はんだ付けが取れかかっていたり、メカニズムの磨耗が進み、修復の限界を超えてしまっているものも少なくありません。(特に洋銀管は傷みが激しい場合、修復が大変です。)
 私のものは9800番台後半でシャンビーユ(Chambille)の時代のものであり、ルイ・ロットとしては後期のものです。(フランスの名フルーティスト,、フェルナン・デュフレーヌが使っていたのが9400番台でしたので、それより少し後のものになります。)手元の資料では1928年から1939年の間の楽器製作は名工Martial Lefevreが行っていたとあり、この楽器も彼の手によるものでしょう。骨董的価値はそれほど高くはありませんが、実にしっかり作られており、前所有者がよほど大切に使っていたらしく、非常に良い状態で手に入れることが出来ました。
ウンチクはこれくらいにして、肝心の音の方は愛らしく、透き通った優美な音色で、視覚にたとえて言うならエミール・ガレのガラス芸術のようなイメージでしょうか。トーンホールは小さく、鳴るポイントは非常に狭いです。現代の楽器と違いポイントを少しでもはずすとスカスカの音になり、全く思うように鳴ってくれません。演奏者に対して曖昧さを全く許さない楽器です。
 今まで、演奏会本番でこの楽器を吹いたことはありません。私にとってこの楽器の存在意義は、「正しいフルートの吹き方を忘れないための道具」というべきでしょうか。現代のフルートは、息のキャパシティが大きく、非常に大きな音で鳴らすことができ、多少ポイントが外れてもそれなりに鳴ってしまいます。 しかし、それが災いして吹き方が荒れてしまう人もいます。ルイ・ロットを含め、昔のポイントの狭い楽器を吹いてみれば自分の吹き方が正しいかどうかすぐにわかります。 この楽器がうまく鳴らせているときは、どんな楽器に持ち替えてみても絶好調で吹けます。

参考文献) Tula Giannini "Great Flute Makers of France, The Lot & Godfroy Families 1650-1900"

ラ・プティット・バンド演奏会

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フラウトトラヴェルソバルトルド・クイケンの弟子でもやって来るのかな~と思っていたら、何と本人が出て来たのにビックリ。しかもブランデンブルグ5番と管組2番のフルートのみならず、ブランデンブルク2番のリコーダーまで担当。素晴らしい演奏でした

蘭情の篠笛

蘭情作 篠笛 唄物 八本調子(上) 六本調子(下)
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蘭情さんの篠笛です。篠笛にもお囃子に使われる古典調(音階として調律されていない古来の篠笛)と唄物(調律されているもの)の2種類がありますが写真の物は唄物。音階が正確に吹けるように穴の位置、大きさに工夫があります。
篠笛の音って、なにか懐かしい感じでいいですね。日本人が思い浮かべる笛の音といえばこれでしょう。
蘭情さんの笛はよく調律されていて、どんな曲でも吹ける優れモノです。

菊田の高麗笛・神楽笛

本日、再び熱田神宮前の菊田雅楽器店へ行きました.....で、ついに買ってしまいました!!
 
高麗笛(下)と神楽笛(上)
 
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共に、本煤竹の籐巻です。 見てお分かりのように菊田さんの高麗笛神楽笛と同様に谷刳りのない、煤竹の表皮をそのまま残した作りです。 巻きの部分は高麗笛が黒漆ですが、神楽笛のほうは黒の埃漆から下地の赤茶色の漆が表面に浮き出しており、なかなかシブいです。 高麗笛は7本、神楽笛は3本から選定させて頂いたのですが、若い方のご主人が長時間ずっとお付き合いしてくださり、さんざん迷った挙句、自分の気に入ったものを見つけることができました。 音律がよく、とても美しい音色です。
笛を決めた後も、笛作りの苦労話やらフルートとの比較など笛談義に花が咲き、気が付いたらすでに2時間。
とくに印象に残ったのが、音律について、「計算は苦手なんですが」と謙遜されつつ純正調の音階と周波数の関係など手書きでいっぱい書かれたメモ帳を見せて下さったことです。
「親父の代は耳だけを頼りにやってきましたが、自分はさらに何かをやらないと。」
常に謙虚であり、伝統を守りながらも、さらに上を目指しておられる姿に感銘を受けました。
 

菊田雅楽器店へ行く

今日は、最近入手した作者不詳の古い龍笛を修理するため、熱田神宮のそばにある「菊田雅楽器店」へ行ってきました。
同じ県内にありながら実は初めての訪問です。ガラガラっとガラス戸を開けて入っていくとすでに篠笛らしき笛を試奏している先客が。
こんにちはと声をかけると若い方の御主人(息子さん?)が応対してくれました。とりあえず笛の方を見て頂いて、吹口の漆の補修と蜜蝋の詰め替えということになりました。 来たついでに高麗笛を見せてくださいとお願いすると、奥から3本持ってきてくださいました。 3本とも煤竹、藤巻で、巻きのない部分は神楽笛のように谷刳りせず煤のかかった竹の皮をそのまま残したものでなかなか渋く、細かいところも美しい仕上がりでした。こちらのものはすべてこういう作りとのこと。 早速試奏すると、こりぁあ、なかなかいいです。クリアな通りのいい音で、しかもうるさくない。皮を残しているのが効いているのでしょうか?
今日のところはとりあえず買いませんでしたが......物欲がムズムズと。

八幡内匠の龍笛

八幡内匠 作  龍笛(本煤竹、桜樺巻)
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 京都八幡内匠の龍笛です。 龍笛平安時代から続く雅楽の笛で、龍の鳴く声がこんなであろうということからその名がつけられました。もっとも当時は一般的には横笛(おうてき)と呼ばれていたようです。このように千年以上まえから姿を変えていない笛なんて世界中探してもほかにはないでしょうね。
 他のフルート属の楽器に比べると、非常に倍音の多い、リーディな音がします。音域的にはピッコロとほぼ同じです。ただし最低音の2つはほとんど使いませんので実質Eが最低音です。和(ふくら)と呼ばれる1オクターブ目、責(せめ)と呼ばれる2オクターブ目が全音域となります。指穴が大きく、指の腹ではなく中ほどで押さえます。写真を見て頂ければわかるように歌口の穴はピッコロと違ってフルート並みに大きく、コントロールはずっと難しいです。でも思うように鳴ったときの気持ちよさは言葉に言い表せません。
 八幡さんの笛は音程が正確で、和から責までよく鳴り、非常に美しい音です。笛吹きの間では大変評価の高い笛です。私にとっても未だにこれを越えるものはありません。また加えて申し上げるなら楽器そのものの仕上げも大変美しく、工芸品としても第一級のものです。内面の鏡のような赤漆など本当に完璧な仕事をなさっています。