ルイ・ロット

 
Louis Lot #98XX (G. Chambille, ca.1929, Paris)
 
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まずはルイ・ロットについて多少述べてみたいと思います。 テオバルト・ベームからいわゆる「ベーム式フルート」の製造ライセンスを最初に取得したのはフランスのゴッドフロワ(Godfloy)とイギリスのルーダル&カルテ(Rudall & Carte)でした。 当時、ルイ・エスプリ・ロット(Louis Lot,ルイ・ロ)は、このゴドフロワの工房で協業していましたが、1855年に独立しフルート工房を始めました。 その後、世代交代しながらもメーカーとしては90余年の歴史を刻んでいますが、現在も多くの楽器が残っており、特に初代Louis Esprit Lotの時代ものはフルーティストの間で垂涎の的となっています。
フルートメーカーとしてのルイ・ロットは1855年から経営者が交代しながら百年近く、5千本余の金属フルートを製造しています。(シリアルナンバーは金属管が偶数、木管が奇数となっています。)
主な弟子(経営者)とシリアルナンバーの関係は次のようになっています。
 
Louis Esprit Lot (1855-75) No.0-2,000
H. D. Villette (1876-1882) No.2,150-3,390
Debonneetbeau de Coutelier (1882-1889) No.3,392-4,750
M. E. Barat (1889-1904) No.4,752-7,350
Ernest Chambille (1904-1922) No.7,352-9,210
G. Chambille (1922-1951) No.9212-10,442

およそ6千番以前のものは銀管、洋銀管とも板状の材料を叩いて丸めて管を作るシーム管と呼ばれる製法で作られているため、それによる物性値の違いから独特の輝かしい音色を持ち、それ以降のシームレス管(引抜き管)とは区別して扱われています。但し、何分にも古い楽器のため状態の良いものはなかなか店頭に並ぶことはありません。(良いものはとうに売れてしまっており、オーナーもそう簡単には手放さないからです。)またさすがにこれだけ古いものになると、はんだ付けが取れかかっていたり、メカニズムの磨耗が進み、修復の限界を超えてしまっているものも少なくありません。(特に洋銀管は傷みが激しい場合、修復が大変です。)
 私のものは9800番台後半でシャンビーユ(Chambille)の時代のものであり、ルイ・ロットとしては後期のものです。(フランスの名フルーティスト,、フェルナン・デュフレーヌが使っていたのが9400番台でしたので、それより少し後のものになります。)手元の資料では1928年から1939年の間の楽器製作は名工Martial Lefevreが行っていたとあり、この楽器も彼の手によるものでしょう。骨董的価値はそれほど高くはありませんが、実にしっかり作られており、前所有者がよほど大切に使っていたらしく、非常に良い状態で手に入れることが出来ました。
ウンチクはこれくらいにして、肝心の音の方は愛らしく、透き通った優美な音色で、視覚にたとえて言うならエミール・ガレのガラス芸術のようなイメージでしょうか。トーンホールは小さく、鳴るポイントは非常に狭いです。現代の楽器と違いポイントを少しでもはずすとスカスカの音になり、全く思うように鳴ってくれません。演奏者に対して曖昧さを全く許さない楽器です。
 今まで、演奏会本番でこの楽器を吹いたことはありません。私にとってこの楽器の存在意義は、「正しいフルートの吹き方を忘れないための道具」というべきでしょうか。現代のフルートは、息のキャパシティが大きく、非常に大きな音で鳴らすことができ、多少ポイントが外れてもそれなりに鳴ってしまいます。 しかし、それが災いして吹き方が荒れてしまう人もいます。ルイ・ロットを含め、昔のポイントの狭い楽器を吹いてみれば自分の吹き方が正しいかどうかすぐにわかります。 この楽器がうまく鳴らせているときは、どんな楽器に持ち替えてみても絶好調で吹けます。

参考文献) Tula Giannini "Great Flute Makers of France, The Lot & Godfroy Families 1650-1900"